みなさま
Vino Hayashi代表、 林功二 です。
はじめまして。
全4回に渡ってモダンブルーさんでのインタビューを掲載してもらったわけですけれど( > 記事はこちら「イタリアワインWEB講座」)、今度は連載というものをやらせていただきます。
最初、これは困ったことになったぞ、というのが正直な気持ちで、我々ワイン屋ですので、文章の素人に面白い文章なんて、はたして書けるのか? と。
さて、連載スタート
悩んだ結果考えたのが、我々がふだん「面白い」と感じてやっていることをなんとか文章に起こしてみるほかないなと。
我々が面白いと思っていることはシンプルで、ずばり「ワインを飲む」ことです。

ワインの勉強と称した、まかないワイン。
ワインの勉強と称した、まかないワイン。
お恥ずかしながら(いや、むしろ胸を張るべきか)我々の会社では、終業後ワインが開きだします。
新しいヴィンテージのワインが入荷されると、前年度との違いを必ず確認しないといけません。
それに、ワインの数日間の変化を見るために、既に開いているものもチェックしたりします。
自社のワインの勉強と称して。
出荷が終われば、勉強のはじまり
これは自社の商品知識にほかなりませんから、私社長としても、怒ったりすることはもちろんなく、「飲まなきゃいけないワイン」という箱に、そのためのワインを入れておくんです。
毎日とは言わなくてもけっこうな種類、量を飲むんです。
(※ 売り物のワインを見境無く飲んでるわけではありません。念のため。)
通称 飲まなきゃ箱
そこで飛び交うなにげない感想、時として激論も、とっても興味深い。
なにせ、ワイン好きしかいない会社ですからね。
ワインが好きな人間同士が、真剣にワインについて語る。
うん、社長の自分が言うのもなんだけど、ワイン屋の鏡だ(笑)。
そのワインはどんな香りがするか?
どんな料理に合うのか?
いろいろ感じて、考えて、飲む。
さらに専門的に踏み込むと、どんな土地で育ったブドウか?
どのような醸造方法で仕上げられたか?
これを感じ取り飲む技法を「テイスティング」といいます。

TVでたまにやってますよね?
2つのうちどちらのワインが10万円のワインでどっちが5千円でしょうか?って。
あれもテイスティングのひとつ。
ワインの銘柄を隠した状態で、飲んで当てるものは「ブラインドテイスティング」といいます。
ワインの銘柄を隠して・・・
連載第1回目として、このブラインドテイスティングをやってみたいと思います。

ここからは私のほかに、弊社の営業ウーマン2人にも登場願います。
ここでは、マテリカさん バルベラさん と呼ばせていただきます。
私があるワインを用意します。ボトルを目隠しした状態で。それを2人には飲んでもらいます。
わかるかな・・・?
皆さんには、先に答えを教えますね。

私がお題にしたワインは キャンティ です。
イタリア中部、トスカーナ地方を代表する銘柄。度数は13度です。
これです。
少々専門的ですが、 サンジョヴェーゼ という黒ブドウ品種を主体に作られていて、酸味がきれいで、食事にも合わせやすい銘柄です。
日本でもとてもポピュラーな銘柄なんです。
イタリアワイン屋としては、ありとあらゆるキャンティを飲んできた(はず)。
さて、これを目隠し(ブラインド)で飲んで、当たるのかどうか?
さて、ここからは、レコーダーのボタンを押して実際の会話を録音してみます。

では、いきますよ。

ポチ。
登場~♥
(次いで、ワインボトルをすっぽり包むケースを持って、はやし社長が登場。無言で机に置くやいなや、あらかじめ用意していた3つのグラスにワインを注ぐ。
ガーネット色の液体が、グラス1/4ほどを満たす。
ガーネット色ということは、当然これは・・・赤ワインです。)
それでは、乾杯ー。
今日もお疲れさまでしたー!
(皆しばしワインを口に含み、数秒沈黙します・・・)
わかった。私、品種はわかりました。
※バルベラさん....Vino Hayashiの営業を担当するアラフォー女子。イタリアソムリエ協会認定のソムリエ資格を持っており、イタリアでソムリエとして勤務した経験もあります。横浜在住。
早い!
ちょっと最初に、写真だけ撮っておきますよ。
知ってる味ですね。
わたし、そんなになじみがないかも。
ふちがピンクがかってますね。
奇麗なガーネットとルビーのちょっと熟成した雰囲気、きれいさがあります。
イタリアだよね?
(はやし社長、挑発してます・・・)
ちなみに今日は、会社のワインとは限らないから ♪
(え・・・?)
でも、すごくなじみのある香りだから・・・ やっぱりイタリア かな。。
うーん、美味しい。バランスよいですね。
飲んでて心地よい。
温度もちょうどいいし。
※マテリカさん....バルベラさん同様、Vino Hayashiの営業を担当するアラフォー女子。「ワインを飲みたい!」という情熱は全スタッフ中、1番かも。イタリア留学経験があり、イタリアソムリエ協会認定のソムリエ資格を持っています。都内在住。
これ今日、録音してるんですよね。
こういう話ってマニアック過ぎますか?
こうやってスワリングしてー(ワイングラスをクルクル回す)。
グラスに残るワインの脚(※)を見てみてみますよね?
それと、液体の動き方。
比較的とろみのあるワインですよ、これ。
※スワリングするとグラスの内壁を伝わって落ちるしずく。これを”脚”もしくは”涙”と表現します。
はい、これがワインの脚・・・
そうすると?
このとろみは、水っぽくない、凝縮している粘性の高いワインの特徴です。
それと脚はそんなに幅が狭くないので、アルコールはそれほど高くない。
13度 ってとこじゃないですか?
あと、エキス分の凝縮感を見る方法ですけど、このスワリングした液体がどれくらいで止まるか?
例えば水っぽいワインだと、なかなか止まらないんですけど、これはすぐ止まる。重量があるから比較的早く止まる。
だからまぁまぁ凝縮感が高い。
でも、重すぎる味わいではないですよね。
うんうん。
プロだって、当てるのは難しい・・
さてと、銘柄、品種、ヴィンテージ、特徴なんかを言っていきましょうか?
あと、アルコール度数、地域も当てたいですね。
でも、こういうのなかなかピタリと当てられるものじゃないから。。
全然外したら社長、そこは、編集でなんとかお願いしますね(笑)。
まぁ、ソムリエコンクールなんかの世界大会でも優勝者がバンバン外しまくるくらいだから、そこは気にせずに(笑)。
さあ、言っていきますか。どうでしょう?
香り、味わい。そしてブドウ品種。ノートに書きだしていきます・・・
まず香りは、カシス、ベリー系って言うよりは大きめの赤いフルーツ、涼しさはあるけど青っぽさはない、つまりメンソールって感じではなくて。
そうそう。
それとタンニンがきれいで、きゅっと凝縮している感じが非常によいです。
コクのある甘みもありますねー。熟成のニュアンスもあるような。。
そんなに酸は強くないですね。でも、細いけどきれいな酸が通る。
ちょうどいいバランスで、アルコール感もある。
さっきも言ったけど、 度数は13度
そうそうアルコール感もバランスのよさ、感じますね。
僕も言っていいですか。ミネラル感はそれほど無い。
うん、ミネラルミネラルはしていないですね。
中盤でわっとフルーティーさも広がりますね。余韻も長い。
わたし、中部だと思う んですけど。
(うん。お題のワインはイタリア中部・・・)
とりあえず色的に、ドルチェットとかバルベーラは絶対にありえないし、カベルネでもないと思うんですけど。
※ドルチェット種とバルベーラ種は北イタリア、ピエモンテ州の固有品種。カベルネはカベルネ・ソーヴィニヨン。フランス原産ですが世界中で作られている国際品種。
うんうん。
私は サンジョヴェーゼ じゃないかなって思うんですけど。
(おっ!・・・)
※サンジョヴェーゼは、トスカーナ州などイタリア中部で数多く生産されている黒ブドウ品種。高級なものからテーブルワインまで、日本にも数多く輸入されています。日本で名の通っているブルネッロ、キャンティなどもこの品種を中心に作られます。
これがサンジョベーゼ種。よく熟れてます。
聞いちゃったら、すごくサンジョヴェーゼに思えてきちゃうなー
(はやしは答えを知っていますが・・・)
でもサンジョヴェーゼは地域や作り方で七変化しますもんね。
地域は、トスカーナ地方じゃなくて、 実は辺ぴなところ?
(えっと...トスカーナ地方を代表する銘柄です・・・)
サンジョヴェーゼだとしても、この低めの酸とフルーティーさは キャンティエリアではない 気がするんだけど。。
(えっと...キャンティです・・・)
サンジョヴェーゼかなぁ?
たしかに辺ぴな感じかも。王道的な感じではないですよね。
ピノ・ネロの感じもありますよね。
※ピノ・ネロは、イタリア北部のトレンティーノ・アルト・アディジェ州、ロンバルディア州などで生産されている黒ブドウ品種。フランス、ブルゴーニュ地方のピノ・ノワールと同じ高貴品種。
はい、では2人ともファイナルアンサーよいですか?
答えをどうぞ。
品種はサンジョベーゼ、産地はトスカーナ。
・・・だけどキャンティじゃない。度数は13.0度。
私は正直確信が持てないんだけど、品種はピノ・ネロ、産地はアルト・アディジェかな?
私も度数は13.0度。
それでは、目隠しを外してみましょう・・・。
じゃ、じゃ・・・
じゃーん・・・!
はい、答えはキャンティでした。二人とも分析はお見事。 途中"キャンティじゃない"発言は出たものの、主要品種であるサンジョヴェーゼ種は、バルベラさん正解だね。
(・・・二人とも沈黙。心なしか悔しそう?)
キャンティですか、、 途中、だんだんフルーティーに変わってきてこういうピノ・ネロもあるなと思ったけど、最後考え直して、このきゅっとした酸はやっぱりトスカーナのサンジョベーゼだと思って。
度数はみんな当たり ましたね(笑) 今さっそく検索してみたんですけど、この キャンティ、セメントタンクでマロラクティック発酵ですね。ブドウのピュアさが前面に出ているキャンティを飲む機会が普段少ない分、逆 にわかりにくかったですね。勉強になりました!!
答えは違えど、2人ともワインの特徴を的確に捉え正解に近づいていきました。

ここで気づきがあります。
どんなに専門知識があっても、自分の直感を大切にする事。
逆に、知識があるほどその判断を迷わせてしまうことも多いということ。
テイスティングは普通、ワインの色、香り、そして味わった印象を言うのがセオリーなんですけど、バルベラさんは最初の「私、わかった」で直感はすでにサンジョヴェーゼに行き着いています。

ただし、考える時間が進むにつれ、余計な迷いも生じてしまう可能性もあったかもしれない。
全員、ピノ・ネロの線もあるよね。と思いましたし。
ここで迷ったら、バルベラさんも正解はなかったかもしれませんね。

私が途中指摘した「有名なソムリエだって結構ハズすことがある」というのは本当です。ハズして当然とは言わないまでも正解は本当に難しく、いい意味で知識やロジックを超えた、ある種直感が正解には必要なんですから。

さて、ちょっと専門用語がポンポン出てきましたが、いかがでしたでしょうか?
みなさんがワインを楽しむときの参考にしていただけたらいいなーと願いつつ、こんな感じでやっていきたいと思います。
※ ワインとブドウのイラストは「ビンテージ Freepikによるベクターデザイン」より。